<報道資料>フェーズ3成功率は世界的減少の傾向ながら、日本の存在感は2008年以降上昇。製薬企業間取引の中心は、引き続き「がん」

日・中・印、世界の医薬品開発状況

2011年8月2日(日本時間)
東京発

特許切れや新薬のパイプライン不足、アジアの新興国での需要の高まりなど、製薬業界は世界的な変化の局面を迎えています。世界的な情報サービス企業であるトムソン・ロイター(本社:米国ニューヨーク、日本オフィス:東京都千代田区)は、2011年上半期に開始したフェーズ3(第Ⅲ相臨床試験)(注1)データおよび過去5年のディール(注2)情報から、変革期に突入している製薬業界の医薬品開発状況の分析を行いました。

今回の分析では、全世界の新規フェーズ3数およびその成功率は減少傾向にあるものの、日本の世界に占める割合は2008年から増加していること、規制整備の遅れなど懸念材料を残しながらも、世界の製薬企業から見た日本は、新薬投入市場として依然魅力的であることが明らかになりました。

【今回の分析に使用したデータベース・分析リポート】

Thomson Reuters Pharma
Newport
2011年版 製薬R&Dファクトブック

  • 2010年の世界の製薬業界における売上は過去最高の8560億米ドルながら、研究開発費は過去3年間で最低の680億米ドルとなりました。この売上のわずか5%が、過去5年に発売された新薬によるものです。大手製薬企業は、既存のブロックバスター(注3)に依存している状況です。
  • グローバル製薬企業は、全体の売上の22%までを研究開発費として投資しています。しかしながら、フェーズ3の成功率は年々減少傾向にあり、2007年以降は中断率55%まで上昇しました(図1)。

    (図1)中断したP3数の推移(2005-2010)

    (図1)中断したP3数の推移(2005-2010)

    CMRインターナショナル 2011年版製薬R&Dファクトブック

  • 中断率のみならず、フェーズ3の開始数も、世界的な減少傾向にあります。治験ガイドラインが強化されたこと、新しいシーズ(開発候補品)が出ないことに加え、長引く世界的経済不況がその背景にあると考えられます。
  • 成長著しく、新しい市場として期待される中国・インドのフェーズ3情況の割合を日本と比較したグラフ(図2)では、日本は、2008年にシェアを大きく伸ばし、その後は横ばいながら、10%以上を維持しています。このことから、世界の製薬企業から、日本がいまだ魅力的な新薬投入市場と捉えられていることが伺えます。中国は低コストで治験の登録が容易ながらデータの信ぴょう性に課題が残ること、インドもデータの信ぴょう性とともに、気候による薬品管理の困難さや疾病分布の違いが、経済的躍進と比例しないデータの原因とみられています。

    (図2)日本、中国、インドのP3情況の割合

    図2

    Thomson Reuters Pharma(accessed 2011/6/23)

  • 2011年上半期にフェーズ3を開始した企業のトップは、イギリスのグラクソ・スミスクライン・ピーエルシー(GlaxoSmithKline plc) でした(図3)。4位の「米国政府」からは、政府が医薬品の開発を国家の重要課題として認識し、積極的に支援している姿が伺えます。一方、日本企業の1位はエーザイ株式会社と武田薬品工業株式会社の各5件(世界20位)でした。

    (図3)2011年上半期にフェーズ3を開始した企業トップ10

    順位 企業名
    1 GlaxoSmithKline plc 34
    2 Novartis AG 33
    3 Merck & Co Inc 27
    4 US Government 21
    5 Roche Holding AG 20
    6 Pfizer Inc 19
    7 Johnson & Johnson 16
    8 Eli Lilly & Co 15
    8 Sanofi 15
    10 Bayer AG 12

    Thomson Reuters Pharma(accessed 2011/6/23)

  • 過去5年間にスタートしたディールを治療領域別にみると、ひきつづき「がん」が圧倒的多数でその勢いに衰えはみられません。また、有益なバイオマーカー(注4)が発見された乳がん、アルツハイマーなどのディールも、増加傾向にあります。過去、ディールの中心であった循環器疾患、糖尿病治療薬などは、上位にありつつも減少しています(図4)。

    (図4)治療領域から見る、過去5年間にスタートしたディール動向

    順位 治療領域
    1 がん ↑↑↑
    2 炎症性疾患
    3 インフルエンザ感染
    4 疼痛
    5 アルツハイマー ↑↑
    6 HIV感染
    7 乳がん ↑↑
    7 固形腫瘍
    9 前立腺腫瘍
    10 自己免疫疾患

    Thomson Reuters Pharma(accessed 2011/6/23)

  • 過去5年間にスタートし、日本企業が締結した1億米ドルの日本のディールの集計では、武田薬品がトップでした(図5)。ライセンス・アウト(注5)はごく少数で、ほとんどが販売権、開発権などを他社から導入するライセンス・インです。日本の製薬企業は、自社以外の技術・開発品を導入する形で、開発からパイプラインの充実を図っていることが分かります。

    (図5)過去5年間にスタートし、日本企業が締結した1億米ドル以上のディール

    企業名 ディール数
    武田薬品 12件
    アステラス 8件
    大塚製薬 4件
    協和発酵キリン 3件
    第一三共 3件
    エーザイ 2件
    塩野義 2件

    Thomson Reuters Pharma(accessed 2011/6/23)


【まとめ】

インド・中国は安価な医薬品を求める傾向が強く、市場はジェネリックが主流です。また、さまざまな課題から、医薬品開発は大幅な伸びを示すには至っておりません。日本は、依然として非常に魅力的な新薬投入市場である一方、一部の領域では規制整備の遅れが医薬品開発に影響を及ぼしています。また、日本企業は、新薬開発の生産性の低下を補うべく、海外からの技術導入やライセンス・インを行っていることが見て取れます。

(注1) 第Ⅲ相臨床試験、フェーズ3、P3とは、医薬品の製造販売に関して薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験(治験)の段階のひとつ。第Ⅰ、第Ⅱ相臨床試験を経て、実際の患者を対象により大きな規模で有効性・安全性を検証する。
(注2) ディールとは、企業間でやり取りされる権利(特許、開発権、販売権など)のこと。
(注3) 医薬品業界におけるブロックバスターとは、圧倒的な売り上げを叩きだし、その売り上げに比例する収益を生み出す新薬のこと。
(注4) バイオマーカーとは血液、尿、組織中に含まれる生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となるもの。特定の疾病や状態に反応して量的変化を起こすため、そのバイオマーカーを測定することで病気の診断や効率的な治療の確立などが可能になる。
(注5) ライセンス・アウトとは、開発権、販売権、宣伝活動件などの権利を他社に委譲すること。


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